埼玉県知事 × 埼玉県医師会長 対談    10月7日(紙面10月18日掲載)       -埼玉県新聞社-   

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■  県医師会と県のタッグ 対談 

 埼玉県知事 大野 元裕 × 埼玉県医師会長 金井 忠男 

  ~ 新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えて~      
 
  司会:丸木雄一 埼玉県医師会常任理事 
 第2波ともいわれる新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の広がりは依然として予断を許さない状況が続く。さらに、これから懸念されるのが季節性インフルエンザとの同時流行(ツインデミック)だ。コロナ禍で到来する初めての冬。県内の医療機関、そして私たち県民はどう対応すればいいのか。「新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えて」をテーマに、大野元裕知事と金井忠男埼玉県医師会長が語り合った。
   
  丸木: 県内の新型コロナウイルス感染症の感染状況は。
  大野: 第1波が終わり今は第2波という指摘もありますが感染者数は6月の後半から増え始め、8月上旬にピークを迎えました。現在は減少傾向ですが、なかなか収束が見えず、今もなお警戒を要する状況。怖いのは行動範囲が広く動きも早い若い方々が都内で感染し、同居の高齢者に広がり重症化するターン。これが最も心配です。
 これから季節性インフルエンザが流行する時期です。国から医療体制の整備を求められており、県としても10月中にしっかり体制整備に努めていきたいと考えています。
   
 ■県内すべての医療機関で発熱患者の診療を
 丸木:  金井会長、県の医師会では、どのように対応していくべきか見解をお願いします。
  金井: 埼玉県では、県内医療機関の協力を得て、従来から、インフルエンザ等の診察をしている全ての医療機関に発熱患者を診てもらうことを考えていますが、ウイルス感染のリスクがある状況で、医療機関は大変です。そこで診療ガイドラインを作りました。 このガイドラインをしっかり守れば(ウイルスは)怖くない、したがって発熱患者を診ていただきたいと医師会の全会員に説明し、大筋では了承を得られたと個人的には理解しています。
  ピーク時の1日当たりの目標検査数は約3万件になるとみていますが、同時流行が発生した時に本当に明確な診断が可能か、この点も考えなければなりません。
  丸木:  知事、今のお話の続きでお願いします。
 
 ■目標1200機関
  大野:  ピーク時は1日最大3万件の患者が発生する可能性があります。このため、可能な限り、多くの医療機関にご協力いただき、どの地域でも診ていただくことが必要になります。
  これまで新型コロナウイルス感染の疑いがある発熱患者は帰国者・接触者相談センターに相談してから受診または検体採取をしていました。これでは3万件はさばけません。そこで一番大事なことは、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザ、両方の診療・検査ができる「埼玉県指定 診療・検査医療機関」の指定を行うことです。1200機関を目標に指定を行います。今後は、かかりつけ医や診療所などの身近な医療機関に相談し受診や検査を行う体制に変わります。これが一番大きなポイントです。
 具体的な受診の流れを申し上げます。まず発熱など症状がある方は、県のホームページ(HP)、または受診・相談センターで最寄りの診療・検査医療機関の受付日時などを確認してください(HPなどは後日オープン)。その上で希望する診療・検査医療機関に連絡し、受診の予約をする。大切なのは予約してから利用するということです。
 したがって対応する医療機関は今後、公表が原則になります。この診療・検査医療機関は新型コロナと季節性インフルエンザ、両方の診療・検査が可能な医療機関を、申請に基づき県が指定します。ただ、診療のみを行う医療機関もあり、この場合に検査は地域外来・検査センターを利用することになります。
 指定された医療機関側のメリットとしては、国や県が行う財政支援制度の対象となるほか、検査に必要な個人防護具(PPE)の配布を受けられる点が挙げられます。
 丸木:  このシステムに関して金井会長、ご意見は。
  金井: 県内全ての医療機関で発熱患者を診ていただくため、診療・検査医療機関にはできるだけ多く手挙げをしていただきたい。G―МISやHER―SYSといった将来にわたり有効なソフトの活用も含まれています。
任意ですが、できる限り登録してほしい。入り口として県内全ての医療機関に発熱患者を診察していただくことが大前提です。 
 丸木:  地域の身近な医療機関で発熱患者をしっかり診ることが重要だということが分かりました。ただ、やはり指定に二の足を踏む医療機関もあると思いま       す。どう対応したらいいでしょうか。
 金井: やはり理解を得ることが一番重要です。それには診療ガイドラインをしっかり守れば安心ですよということを細かく説明する。今後、県から保健所単位で説明していただくことになっていますが、疑問点は必ず出てくる。そのためにQ&Aをしっかり作ることで、医療機関の皆さまに安心感を持ってもらうことが一番だと思います。
 もう1点、県内の地域医療提供体制は現在、非常にバランスが取れていますが、発熱患者の発生などでこの状況に偏りが出る恐れがあります。その辺りはよくご理解いただいた上でスタートしたい。 
 
 ■感染リスクを減らすためのガイドライン 
 丸木:  ガイドラインのご説明もお願いできますか。
  金井:   診療ガイドラインの目的は、医療従事者と患者がともに安全に診療・検査を行えることです。予防の基本として3密回避、マスクの着用、手洗い。高齢者にはインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン接種を積極的に行っていただきたいと思います。診察は15分以内を目指し、飛沫を受ける可能性がある処置の際はサージカルマスク、アイソレーションガウン、フェイスシールド、非滅菌手袋を着用する。検査を行う場合は換気しやすい場所やドライブスルー方式など診察室外での処置を採用する。こうした環境なら患者に新型コロナウイルス感染症の陽性者が出ても、診察医やスタッフは濃厚接触者になりません。

 院内感染を防止するため、発熱患者と他の一般患者は分離する必要があります。これについては
①発熱患者専用の動線を確保できる場合は、発熱患者用に別の出入り口や待合室、診察室を用意する。
②動線の分離が難しい場合は、発熱患者を通常診察終了後に診察(事前予約)するなど時間帯で区分するか、駐車場に停めた自家用車内やテントなどを利用して診察室外で対応する方法があります。

 発熱患者は受付可能な診療時間に予約を取ってから来院します。事前予約や電話連絡なしで来院した場合は別室で待機したり、車で来院していれば駐車場で待機していただいたり、予約を取り直し改めて来院していただきます。
 発熱患者がインフルエンザかCOVID―19か鑑別できない場合はどうするか。厚生労働省の10月2日付けの通知により、インフルエンザ検査では鼻腔ぬぐい液(鼻前庭=鼻の入り口)を検体として活用することが認められました。検体を採取する場合も鼻腔の奥と入り口近くでは相当な差があり、入り口の検査では、医療者へのウイルス曝露(ばくろ)は限定的です。検査の結果、インフルエンザ陽性なら自宅待機を指示し、陰性ならCOVID―19の検査を実施することになります。
 COVID―19も鼻腔ぬぐい液による簡易キット(抗原定性)検査が可能になりました。これは患者さん自身でやってもらうこともでき、診療医やスタッフへの曝露は非常に少なくなります。

 インフルエンザが強く疑われる場合、検査を行わずに抗インフルエンザ薬を処方し、自宅待機を指示します。インフルエンザが疑われる場合は診察せずに薬を出すことは既に行われています。
  次に、COVID―19が強く疑われる場合です。
①自院で検査可能なら、鼻咽頭ぬぐい液採取、鼻腔ぬぐい液の簡易キットや唾液PCRを実施します。
②自院で検体採取ができない場合は、連携する県内32カ所の地域外来・検査センターに検査を依頼することができます。
  どの医療機関でも発熱患者の診療ができることを明確に示すために、丸木常任理事や県の方々、医師会の委員会で検討を重ねて作ったのがこの診療ガイドラインです。
 
  ■国と県で財政支援
 丸木:  知事、診療・検査医療機関への支援については。
 大野: 大きく三つ、申し上げます。まずは、国による財政措置です。1点目は医療資格者の労災給付の上乗せをする医療機関に補助を行います。2点目は、外来診療・検査体制確保に要する費用を補助します。具体的には、1日当たりの基準患者数の上限を20人とし、実際に診療した患者数がこれに満たない分を人数に応じて補助する仕組みです。このほか個人防護具(PPE)は国から無償で配布されます。3点目は、県による財政措置ですが、10月15日から11月14日までの早期に診療・検査医療機関の指定の申請を行っていただければ協力金として50万円を補助します。 
 丸木:  ほかに地域の医療機関に対応してほしい取り組みは。
 大野:  インフルエンザの予防接種の積極的な実施をお願いします。医療機関の負担軽減のためにも重症化リスクの高い高齢者の方などの定期接種対象者に早い時期に接種していただく必要があります。インフルエンザは1〜2月がピークですから12月までに接種を終えることが大切です。県は定期接種者が12月末までに接種すれば自己負担額を全額補助することを決定しました。医療機関でも対象の方々に早期の接種を勧めていただきたいと思います。
 
  ■県民へのメッセージ
 丸木:  今回のツインデミックは、診療・検査医療機関の指定を受けた地元の医療機関が、発熱患者を最初に診察する「ゲートキー パー」的な役割を果たすことで乗り越えられるという印象を、私も持っています。
最後に、知事と医師会会長から医療機関関係者や県民に対して、一言メッセージをお願いします。
 大野:  まず埼玉県医師会をはじめ医療関係者の方々に心より御礼を申し上げます。皆さまの全面的なご協力の下、埼玉県は素早い対応ができ、医師会との連絡・調整も円滑に進めることができました。皆さまにはご自身の曝露の可能性が多々ある最前線でご苦労をいただいています。県としても一刻も早く、万全な支援体制を作りたいと考えています。ツインデミックでは鑑別の難しい患者さんへの対応となり、皆さまにおかれてはご不安がおありだと思いますが改めてタッグを組み、ワンチームでこの苦難を乗り越えていきたいと思います。
県民の皆さまには、しばらくの間新型コロナウイルスが蔓延していることを前提とした対応をお願いせざるを得ません。医療機関に必要以上の負担がかからないよう、今年はインフルエンザの予防接種を早めに済ませてください。万が一、発熱したら、地域のお医者さんに相談し事前予約を取り、診察 や検査を受けてください。われわれも万全を尽くします。ご協力をお願いします。
 金井: 医療関係者へのメッセージですが、われわれも医療機関の方々にはいろいろなお話をさせていただいております。これについては県と緊密な連携、協議を重ねた中で出来上がったものです。
医療機関の皆さまには感染リスクがないような形を取っていただきたい。そういう中で、今年の秋冬における発熱患者等に対する対応をぜひともお願いします。
 それから県民の皆さまに向けてです。東京由来や夜の街といった感染ルートの指摘もありますが、現在は家庭や職場が感染の多くを占めています。感染防止対策については県と医師会で、対策動画を作成しました。ちょうど配信が始まったところですので、HPなどからご覧いただけます。
 われわれ医療機関もしっかり考え、ツインデミックに対応し、皆さまが安心できる形を取りたい。また皆さまのお役に立つことがあれば、さまざまな形で取り組ませていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 
 体制整備について
 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0701/corona-sitei/top.html

感染症対策動画
 http://www.saitama.med.or.jp/2020corona_kenshukai/index.html

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